はじめに:南信州・飯田で見つけた「本物の食」を訪ねて

長野県南部に位置する南信州・飯田市。アルプスの清らかな雪解け水と、標高差が生み出す澄んだ空気が育むこの土地は、全国屈指の「絶品フルーツと野菜の宝庫」として知られています。
長野の魅力を深掘りする観光ポータルサイト「connect nagano」がお届けするインタビュー連載。記念すべき第1弾は、この飯田市で「ひなた農園」を営む大日向章(おおひなた・あきら)さんをお訪ねしました。
前職は神奈川県・川崎の青果市場勤務。全国の青果を知り尽くした「目利きのプロ」が、なぜすべてのキャリアを捨ててまで南信州・飯田への移住を決意したのか?
そこには、私たちが普段手に取る作物にはない「食の真実」と、この土地への深い愛がありました。
1. 青果市場で出会った衝撃の味。プロの目が選んだ「飯田に移住すべき理由」
市田柿の食感と、南水の甘さに惚れて
千葉県出身の大日向さんは、かつて川崎の青果市場に勤務していました。日本全国からありとあらゆる高級フルーツや野菜が集まる環境で、日々作物を目利きしていた大日向さんの人生を大きく変えたのが、南信州・飯田から届いた特産果実でした。
「市場で食べた『南水(梨)』の独自のブランド感と圧巻の甘さ、そして『市田柿』の独特でもっちりとした食感。一口食べた瞬間、『なぜこんなに美味しいのか?自分でも作ってみたい』という強い疑問と感動が頭から離れず、気づけば飯田への移住を決意していました」
「ひなた農園」に込めた名と、地域への感謝
ご自身の「大日向」という名字と、農業に不可欠な水・「太陽(ひなた)」を重ねて名付けられた「ひなた農園」。2016年の独立当初は「その日をこなすだけで必死だった」と振り返ります。
しかし、移住してきた自分を地域の人々が温かく受け入れてくれたことで、心境に大きな変化が生まれました。
「年数を重ねるごとに、温かく迎えてくれた地域の方々のために努力を絶やさず、誠実に作物を作り続けようという意思が強くなっていきました」
2. 現場で学んだ「予防」と「工程管理」の厳しさ
未経験から飛び込んだ農業の世界。最初は先輩農家からの「先を見て作業する(予防する)」というアドバイスの意味がピンと来ていなかったと言います。
「始めた当初は半信半疑だった『予防』ですが、実際に畑に出て病害虫と向き合う中で、その重要性を身をもって痛感しました。今になって先輩方のアドバイスが本当に身に染みています。 先を見越して作業しないと作物の切り替えが間に合わないため、日々の『スケジュール管理』を徹底することが、今一番大変であり大切なことです」
3. 「味の秘密?ただ木にならせておくことです(笑)」——直売所だから実現できる『樹上完熟』の贅沢
長野の作物が美味しい本当の理由
「なぜ長野の作物はこんなに美味しいのか?」という問いに、大日向さんは「標高差や夜の寒暖差、気候に合わせた品種作りはもちろんですが、一番は生産者と消費者の距離が近いこと」だと分析します。
一般流通では店頭に並ぶタイミングを考慮して早摘みされますが、飯田では農家が近隣の直売所に直接卸して販売するため、一番美味しい状態ですぐ消費者に届きます。
- 主な出荷先直売所:りんごの里、およりてふぁーむ、Aコープファーマーズいいだ、上郷イオン、たかどやふぁーむ 等
「これだけ農業が身近にあって、採れたてが買える環境が本当に羨ましいと思いますね」
有機JASトマトの苦労と「木で熟す」価値
ひなた農園では、トマトのみ長野県の有機JAS認証を取得しています。病虫害対策や肥料の工夫など苦労は尽きませんが、長野県の「里親研修」で出会ったハングリー精神旺盛なコミュニティのおかげで、「なぜ?」を追求する探求心が身についたと語ります。
その有機トマトの味の秘密を尋ねると、大日向さんは笑います。
「秘密なんてないですよ、普通です(笑)。ただ、木にならせたまま熟させてから収穫(樹上完熟)するので、味が濃くなるんです」
4. こだわりの発信と、農家直伝「無水トマトカレー」
通販でのプロセス発信と、収穫体験を行わない理由
直売所での接客機会は少ないものの、ネット販売で直接届くお客様からのレビューは大きな励みになっています。
全国へ通販でお届けする際は、単に作物を送るだけでなく「今どんな作業をしているか」「どんな想いで育てたか」という努力やプロセスをSNS等で伝える工夫を重ねています。
なお、収穫体験などは「小規模で営んでいるため、手を広げすぎると手が回らなくなってしまう。そこは他の農園さんにお任せしたい」と、目の前の作物の品質管理に集中する姿勢を徹底しています。
特別コラム 水を使わない!絶品「完熟有機トマトカレー」

「一番美味しい食べ方はそのまま食べること!」と語る大日向さんですが、どうしても出てしまう「規格外の完熟トマト」を活用した、秘伝のまかないレシピを教えてくれました。
完熟有機トマトの「無水トマトカレー」
材料
- ひなた農園の完熟トマト(規格外や熟したものでOK)
- お好みの具材(肉・玉ねぎなど)
- カレールー
作り方とポイント 水は一切使いません! 薄切りにしたトマトを鍋いっぱいに敷き詰め、弱火でじっくり加熱。トマト自身からあふれ出るたっぷりの水分と旨味だけで具材を煮込み、仕上げにルーを溶かすだけ。
大日向さんより 「水の代わりにトマトの水分だけで作るので、トマトのコクと濃厚な旨味がギュッと凝縮されて最高に美味しいですよ。トマトがたくさん手に入ったらぜひ試してみてください!ちなみに、梨はジャムにするのもおすすめです」
5. 「無理に規模は広げない」——仲間と土地を愛し、共に生きる

農園の未来と、人と人との繋がり
今後の展開について尋ねると、「新たな品種を始めたり規模を広げると管理が大変になるので、今の規模で無理せず頑張りたい」と謙虚に語る大日向さん。
「農地を貸してくださっている地域の方に『大日向に貸して良かった』と思っていただけること。そして、共に働くスタッフを大切にできる農園であり続けることが僕の目標です」
人が温かく、空が広い。大日向さんが愛する飯田の風景
飯田の魅力を尋ねると、「言葉が優しく雪が少ないこと、温かい人が多いこと。そして空が広く、山の雲を見れば天気がわかる自然との共生感」を挙げてくれました。
ポイントとなるロケーションとして教えてくれたのが、観光地ではなく「自宅の下を通る山麓線(さんろくせん)沿いの田んぼ」。5月〜6月の田植えの時期、張られた水に広い空が映り込む風景は、南信州が誇る「最高の日常」です。
6. 読者・全国のファンへメッセージ

「この取材記事や、僕たちが育てた作物をきっかけに、飯田がみなさんの『次の旅の候補地』になればこれ以上に嬉しいことはありません。 まだ旅の目的地として選ばれることが少ない飯田市ですが、この記事を読んで『行ってみよう』と思う人が少しでも増えてくれたら幸いです。ありがとうございました!」
■ ひなた農園 公式サイト・オンラインショップ 最新の収穫情報や作物のご注文・お問い合わせはこちらからご覧いただけます。
[ひなた農園 公式Webサイトはこちら](ABOUT | ひなた農園 オンラインショップSTORE)
編集後記(connect naganoライターより)
プロの目線で「本物の味」を見抜き、南信州・飯田へ人生をかけて飛び込んだ大日向さん。
インタビューの端々から感じられたのは、作物と土、そして地域の人々に対する嘘偽りのない誠実さでした。
市場には出回らない、農家直送だからこそ味わえる「本当の完熟の味」。ぜひ地元の直売所や通販サイトを通じて手にとり、そして大日向さんが愛する南信州・飯田の広い空の下へ遊びに来てみてください!








